Keine Ahnung.

Dec 03 2008

何もしなくても自動的に結婚できる時代は終わった。
就職活動と同じように、結婚活動(婚活)は今や常識。
その婚活女性たちを、大不況が襲った。
仕事や生活の不安が、結婚願望を肥大化させているが……。
編集部 木村恵子、小林明子

 通勤電車であたりを見回すのが癖になっている。チェックするのは女性乗客の左手薬指。「指輪あり」の近くに移動しては、こっそり観察。なんでこの人は結婚できたのか、自分との差は何なのか。販売会社勤務のミキさん(30)は、冷静な分析こそが「婚活」の第一歩と心掛けている。

 だが先日はどうしても怒りがおさまらなかった。隣の「指輪あり」のカオは骸骨みたいで、おばさん風の服装。一緒にいた友達との会話を聞いていると、

「やっぱり女の人生って結婚で決まるよね。うちは、旦那の収入があるから子どもの私立中学受験もできるわけだし」

 と、のたまっていた。なんでこの人がそんな相手と結婚できるの! 一体私の何がダメだって言うの!

 自分でも容姿にはそこそこ自信がある。ネイルも欠かさず、普段からおしゃれに余念がない。お花も料理も習い、出雲大社など縁結び神社やパワースポット巡りもした。3年前から恋愛力がアップするというパワーストーンも身につけ、月に2、3回合コンに臨んでいる。

 でも、そもそもターゲットの男性になかなか巡り合わない。「年収700万円以上、安定した企業に勤める人」。この条件は絶対だ。悔しいが、電車の骸骨女が言っていたのは正しいと思う。夫の経済力が、生活の質や子どもの将来までを決める。だから、妥協はできない。

結婚条件の規制緩和を

 氷河期末期の8年前、いまの中小企業に就職した。会社にはターゲットの男性はいない。大手商社やテレビ局に勤める男性がいいと思うがツテがない。就職の時点で、婚活のハンディを背負わされたとつくづく思う。

 かといって合コンの10回に1回くらい巡り合う条件クリアの男性には惹かれない。大抵が、ひたすら自慢話タイプか、女遊びタイプか、女性の目を見てしゃべれないタイプ。まれに内面もOKでも、今度は相手にされない。婚活のデフレスパイラル状態だという。

 最近はさらに不安が膨らんでいる。世界同時不況到来──。一体これから世界はどうなってしまうのか、と思うような暗いニュースばかりだ。

 実際の損失も出た。就職以来、コツコツと貯めた貯金は1000万円ほど。3割程度を株や投資信託に充てていたが、大幅下落。もしかして一生独りかも、という心配がよぎるだけに貯めてきたのに。

「こんな時に独身では不安と思うけど、不安になるほど、結婚相手の経済条件は譲れなくなって、ますます縁遠くなっている気がします。そろそろ結婚条件の規制緩和をしないといけないのはわかっているのですが……」

狙うは生粋のボンボン

 2、3回のデートの末、港区の彼のタワーマンションに遊びに行ったこともある。でも、遊びなれている彼のオンリーワンにはなれない。うざいと言われるのが嫌で、踏み込めない関係で終わってしまう。

 それでも年収2000万円にこだわるのは、今の生活を変えたくないから。これまで欲しいものを我慢したという記憶はない。最近も友達と豪華客船に泊まりながらアフリカを旅した。こういう旅行を家族でするには収入条件は下げられない。自身は、結婚しても仕事を続けてもいいとは思うが、自分の収入をあてにされるような結婚はいやだ。

 最近のリーマン破綻や、ホリエモンに続く小室哲哉の逮捕で、外資系金融や成り金はあてにならないと心得た。ターゲットはさらに狭く、代々の医者など生粋のボンボンを狙う。合コンではさりげなく親の職業や実家の場所、育ちぶりを聞き出す。

「ここまでして欲しいのは、お金というより、『こんなスゴイ人を捕まえられていいな』という周囲からの羨望なんです」

突然の内定取り消し

 心理カウンセラーの清水おりえさんのカウンセリングルームには、かつてはバリキャリの女性が仕事か家庭かに悩んで来るケースが多かった。だが、そういう女性たちの中にはいまは肩の力を抜いて、仕事一辺倒ではなく好きな人と結婚できれば、と穏やかに婚活している人も多いという。

 むしろ深刻なのは、仕事でやりがいを感じられていない女性たち。自分の価値を高める唯一の手段をセレブ婚にかけて、現実離れした願望にとらわれて辛くなっている女性もいるという。

「これから不況でリストラが進んだり、思うように就職できなかったりすると、ますます結婚頼みになる傾向が強まるかもしれません」

 都内に住むサヤカさん(37)に9月末、1本の電話が入った。

「アメリカ本社から今は人を採れないと言われたから、話はなかったことにしてほしい」

 3カ月の就職活動の末、やっと米系の人材会社に内定し、報酬交渉に入っていたのに、突然の内定取り消しの連絡だった。 地方局のアナウンサーや大学の研究者として働いていたが、一時、祖父の介護のため仕事を離れ、祖父が亡くなったことから、再就職を目指していた。日本企業は暗黙の年齢制限があって門戸は狭い。外資系企業が頼みの綱だったのに、9月のリーマン破綻で状況が一転した。自分の納得のいく仕事ができていない分、結婚への焦りも大きくなる。

相手年収は600万超

 自然に結婚できる時代は終わった。日本の未婚化・非婚化は急激に進み、2005年の国勢調査では、未婚率は30〜34歳の男性で47%、女性で32%に上る。だからこそいまは、就職活動と同じく結婚活動、略して「婚活」が必要な時代だ、とアエラは07年11月5日号で報じた。

 だが、深刻な不況は婚活女性たちをも直撃した。アエラで今回、30代、40代の婚活中の女性など525人に調査したところ、相手に望む条件として経済的な要素がますます重要視されていた。相手選びで重視するトップ3は、「性格」を除けば「金銭感覚」「職業の安定性」「収入」。相手の年収は、600万円以上が8割超、800万円以上に限っても55%に上った。

 だが、昨年度の国税庁の民間給与実態統計調査によると、年収600万円以上の男性は3割程度、800万円以上は15%だけだ。未婚の若手世代に限ればさらに割合は少ない。希望と現実の差はかくも大きいのだ。

 それなのに、婚活女性の願望は、時代が不安定になるにつれますます肥大している。

「結婚するなら年収2000万円以上の男性じゃないと」

 と、西川史子センセ並みの発言をかますのは、自営業のサトミさん(29)。女子高校生ブーム世代で、高校時代から社会人合コンの常連。人脈を築くのは得意中の得意だ。合コンではでしゃばらず、幹事の女性をさりげなく立てて次の合コンにも呼んでもらう。そうやって、医者や弁護士、外資系金融など高スペック男性の知り合いをアメーバ状に増やし、週2〜4回の合コンをこなしてきた。

どこにも居場所がない

 外資系金融に勤め、2000万円を稼ぐ親しい独身女性の先輩は、サヤカさんが37歳の誕生日を迎えた時、

「いよいよアラフォーの仲間入りだね」

 と、祝ってくれた。でも、やっぱり自分は先輩とは違うと思う。今年放送されたドラマ「Around40」の主人公は、天海祐希演じる精神科医で、高級マンションに住む独身女性。対照的に描かれていたのは、夫や子どもの世話ばかりで社会とかかわっていないことに悩む、松下由樹演じる専業主婦だった。

「どちらのカテゴリーにも入らない自分には、居場所がない」

 早く自分が安心できる居場所を見つけたい。結婚相談所に登録し、来年中には交際、遅くとも再来年には結婚することを目標に、40回以上のお見合いを繰り返した。出会いを増やすことが婚活成功の第一歩と思い、50代バツイチともオタク系男性ともとにかく会った。でも、いまだに結婚したいと思える男性には出会っていない。

本当に結婚したいのか

 すればするほど一体自分は誰と結婚したいのかわからなくなる——「婚活の罠」にハマったと感じているのは、石油会社に勤めるユカさん(34)もだ。2年前に独身女友達10人で「イチゴの会」(いくら自分がオヤジ化しても男性の前では女の子っぽくする会)を結成。会員同士で男友達を融通しあい、月2、3回の合コンを続けてきた。

 恋愛に効くと噂の神社仏閣は総なめ。「東京大神宮」に初詣でし、箱根の「九頭龍神社」のお守りは肌身離さず、指には東京・足立区の「西新井大師」の恋愛成就リングが光る。毎年富士山に登り、山頂にある「富士山本宮浅間大社」の奥宮にも参る。国内では飽きたらず、ハワイの「出雲大社」支社でも祈った。

 神頼みが奏功したのか、最近、友達の紹介で出会った男性から強烈プッシュが来た。一人は東大卒の弁護士、もう一人はガテン系。弁護士は条件はいいし両親が喜ぶのもわかったが、何度デートをしても生理的に受け付けない。ガテンくんは収入面が気になる。足して2で割れないものか。

「こんなに婚活した結果がこの相手かと思うと、どんな人でも満足できないような……。邪念も吹き飛ぶほど好きと思える人が現れればいいけど。最近あまりに考えすぎて、自分は本当に結婚したいのかさえ、わからなくなってきました」

20代の参入に脅える

 異性関係を諦め枯れてしまう女性を「カレージョ」と名付け、本にも書いた、にらさわあきこさんは言う。

「婚活女性たちは一見恋愛に積極的なようだけれど、条件ばかり追い求めたり、結婚という結果だけを出そうと必死になったりして、恋愛感情とはほど遠い状態になっている人も多い」

 不況で収入が減り自信をなくす男性が増えると、婚活や自分磨きに走る女性とのギャップがますます広がる、とも懸念する。

 今回取材した30代女性たちが口にした、さらに大きな不安要素、それは不況で不安を煽られると、まだ婚活の必要なしの20代女性が刺激され、婚活市場に参入してくるのではないか、ということだ。

 夫婦カウンセラーの岡野あつこさんが主宰するブライダルサロンの「エグゼクティブコース」。歯科医や弁護士、経営者らの紹介を受ける前に、5回の個人講座でまず自分を磨く。ここに通うリカさん(21)は、歯科医との結婚のためのカリキュラムを受講、歯科業界の仕組みを学び、歯科医夫人から妻としての心構えのレクチャーを受けている。

「不況って、お金持ちと、お金持ちじゃない人とに分かれること。だったら私は上にいたい」

 短大卒業後に勤めた会社は、事務職でも夜中3時まで残業がある激務。体調を崩して半年で退職した。それからは仕事に傾けた情熱をすべて婚活に捧げ、尽くし甲斐のある尊敬できる夫を探している。

 同じコースに通う医学部生のナオさん(25)も先手必勝を狙う。

「結婚相手も医師だったら、仕事の大変さをわかってもらえるし、出産や育児で私が休んでも収入を確保できる」

 講座資金50万円を出した母親(50)も、

「バッグ一つ買うよりも、将来の投資になる。娘の仕事を応援してくれる男性を見つけることが幸せにつながる」

 お金や安心、将来の見通しや生きがい──婚活に必死な女性たちは、不安定な社会が奪っていったものを結婚という形で取り戻そうとしている。

Page 1 of 1